東北大学加齢医学研究所 臨床腫瘍学分野 東北大学 腫瘍内科

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研究の概要

 1981年以降、我が国では悪性新生物(すなわち、がん)は死因の第1位となり、その後、がんの死亡者数は増加の一途を辿っています。がんの予防と検診の受診率の向上に加えて、進行がんの診断法や治療法の開発は国策として重要な課題になっています。当分野は1969年の設立時から進行がん患者の病態の把握と、そこから得られた医学的知見をがんの病態診断やがん化学療法に応用する研究を展開してきました。がん分子標的治療薬の登場により進行がん患者の治療成績は着実に向上していますが、未だ治療法が確立していないがんや、薬剤耐性の問題が大きく、より有効ながん薬物療法を開発する必要性は一段と高まっています。また、新規抗がん薬や併用療法の開発に加えて、より効率が良い薬剤開発や有効性が予想される患者にだけ投与するためのバイオマーカーの開発が併せて重要になっています。

 当分野では、腫瘍内科学の中心的テーマである進行がん患者の内科的診断方法や治療方法の開発を主な研究テーマに据え、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)世代がん医療創生研究事業、文部科学省科学研究費、文部科学省がんプロフェッショナル基盤養成推進プラン、厚生労働省がん診療連携拠点病院強化事業費等の公的研究費や補助金、ならびに民間研究助成金等の研究費を活用して、主に以下に掲げる研究を推進しています。さらに、進行がん患者の生活の質を改善するための緩和ケアや支持療法の課題、さらに地域のがん医療水準の向上のための様々な活動を研究の一環として展開しています。

 

1.バイオマーカーの探索ならびに開発研究

(1)大腸がんのバイオマーカー

(ア)網羅的遺伝子発現解析および全エクソン解析による
   大腸がんの新規バイオマーカー探索

大内 康太

 遺伝子解析手法の進歩によって、がん細胞でおこっている分子生物学的変化を網羅的に捉えることが可能となりました。マイクロアレイは全遺伝子の発現状況を、次世代シークエンサーを用いた全エクソン解析では遺伝子の変異、増幅、欠失などを網羅的に検出することが可能です。本研究は、これらの網羅的な解析を利用することにより、大腸がんの予後や分子標的治療薬を中心とした抗がん剤感受性と関連するバイオマーカーの探索を行うものです。

 これまでの研究で、当分野では階層的クラスタリング法などの統計学的手法によって、大腸がんを分子生物学的特徴が異なるいくつかのサブタイプに分類することが可能であることを明らかにしました。現在私たちの研究室では、マイクロアレイによる遺伝子発現情報と全エクソン解析による遺伝子変異情報、後述のDNAメチル化状態を統合解析することで、それぞれのサブタイプの特徴や治療のターゲットを見いだし、サブタイプごとの治療戦略を確立することを目標としています。

(イ)DNAメチル化解析による大腸がんの新規バイオマーカーの開発

大内 康太

 がん化に関わる分子生物学的変化として、遺伝子変異を伴うジェネティックな変化だけでなく、DNAのメチル化やヒストンの修飾などエピジェネティックな変化の重要性が示されています。大腸癌においては、DNAの広範なメチル化異常を特徴とするサブグループ(CpGアイランドメチル化表現型)があり、特有の発がん機構やがん細胞の特性、臨床的特徴を有しています。当研究室では、DNAメチル化アレイを用いた網羅的DNAメチル化解析により、従来のCpGアイランドメチル化表現型よりもさらに高い割合で、大腸がんには高度にDNAがメチル化された症例(高メチル化大腸がん)が含まれていることを明らかにしました。さらに、薬剤の治療効果との相関を解析した結果、抗EGFR抗体薬(セツキシマブ、パニツムマブ)の治療効果とDNAメチル化状態が相関することが示され、新しいバイオマーカーとして臨床導入を見据えた体外診断薬の開発を進めています。これにより、DNAのメチル化状態に基づく新しい治療戦略を生み出すことで、個別化医療の一層の推進を目指しています。

(2)乳がんの予後および治療効果予測バイオマーカーの開発

佐々木 啓寿

 乳がんは女性のがん罹患者数で第2位を占め、年々増加傾向にあります。近年、網羅的遺伝子発現解析が乳がんの生物学的特徴の把握、予後および薬剤感受性予測に有効であることが明らかとなってきました。本研究では、網羅的遺伝子発現解析を利用して、乳がんの予後および治療効果を予測可能なバイオマーカーの開発を行っています。特に乳がんの発がんにおいて重要ながん抑制遺伝子であるTP53遺伝子変異に着目し、遺伝子発現解析によって、予後や治療効果を高精度に予測可能な診断システムの開発を行っています。

 多角的な分子解析によって治療法の選択に寄与できる簡便で信頼性の高い診断法の確立を目指して研究を行っています。

2.新規がん分子標的薬の開発

(1)BRAF変異がんの治療開発

高橋 雅信

 BRAFは有名ながん遺伝子の1つで、BRAF変異は甲状腺がん (60%),悪性黒色腫 (30-50%),大腸がん (5-10%),肺がん (1-5%)などで認められます。BRAF変異大腸がんは予後不良で、2020年にBRAF阻害薬+抗EGFR抗体±MEK阻害薬が保険承認されましたが、効果はまだまだ不十分であり、さらなる治療効果の向上が必要です。私たちの研究室では、化合物ライブラリのスクリーニングや網羅的遺伝子ノックダウン系スクリーニングを用いて、BRAF変異がんにおけるBRAF阻害薬の効果をさらに増強させる新規化合物や新規標的遺伝子探索を行っています。すでにいくつかの化合物や遺伝子の候補を同定し、基礎的な実験でのメカニズムの検証、マウス実験での効果の検証、さらに一部は臨床試験の実施に向け準備を始めています。

(2)HDAC/PI3K阻害薬の開発

西條 憲

 新規のがん治療薬剤の開発は険しく、臨床試験に進む前に非臨床試験のいくつものハードルを越える必要がありますが、われわれはアカデミアならではの独自の発想にもとづいた画期的な新規がん治療薬の創出を目指しています。HDAC阻害薬とPI3K阻害薬を併用すると抗腫瘍効果の増強をもたらすことが報告されていることから、1剤でHDACとPI3Kの両方を阻害するHDAC/PI3K 2重阻害薬の開発に取り組んでいます。また、その他の天然物に由来する化合物の抗がん活性の評価、作用機序解析、構造最適化もテーマとしています。さらに東北大学多元物質科学研究所との共同研究において、ドラッグデリバリーシステムの技術を応用した全く新規の抗がん薬開発を開始しております。新規の作用機序をもった薬剤は、これまで治療薬がなかった希少がんや、既存の治療薬に不応のがんに効果が期待されます。

3.がん免疫療法の標的探索

城田 英和

 腫瘍周辺環境における慢性的な炎症が腫瘍の進展、転移に影響を与えることが報告されており、これらの分子をターゲットにした薬剤開発が急がれています。特にT細胞は腫瘍を認識し腫瘍の増殖、排除に重要な役割を担っています。近年臨床応用されているT細胞を抑制する免疫チェックポイントをブロックする抗体(抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体)を用いた免疫療法は有望な成績をあげています。本研究ではこれら腫瘍周辺環境の炎症の仕組みを解明し、癌免疫療法の新規ターゲットを開拓していく。腫瘍内の慢性炎症のメカニズムを解明することは患者予後因子としての新しいマーカーの発見やその分子の標的薬剤の開発につながり、効果的ながんワクチン、がん免疫療法の開発等、直接的な応用が期待できます。

4.体内細菌叢の抗がん薬効果に対する影響

今井 源

 近年、がんと体内細菌叢の関係についての報告が増えてきています。特に膵がんはがん組織内の微小環境因子として細菌が多数存在しているため、がんの発生や進行、抗がん薬に対する反応性に関し、細菌が強く影響していることが推察されます。

 我々の研究室では、抗菌薬の投与が膵癌に使用される抗がん薬、ゲムシタビンの治療効果を改善させる事に気づき、論文発表しました(Imai H, Ishioka C et al. Cancer Manag Res. 2019 Aug 22;11:7953-7965. )。これは、抗菌薬による体内細菌叢の変化が、ゲムシタビンの効果を改善させたと推測しています。この事実を、将来的に実臨床に応用させるため、臨床試験T-CORE2201を実施中です。この試験により、抗菌薬併用が膵がんにおいてゲムシタビンの治療効果を改善させる事が証明されれば、将来的に抗菌薬併用という極めて簡便な方法で、膵がん患者さんの生命予後を延長させる可能性があります。
現在、臨床試験と平行し、詳細なゲムシタビンの治療効果改善メカニズムを探索するため、膵がんモデルマウスを用いた実証実験も進行中です。

5.がんゲノム医療のリアルワールドデータを用いた治療標的の探索

小峰 啓吾

 2019年にがん遺伝子パネル検査が保険適用となり、日本人のがん患者のゲノム情報が蓄積されてきています。単一遺伝子をターゲットとした治療の開発、治療の層別化は進んでいますが、複数の遺伝子変化を基とした治療開発は未だ不十分です。がんゲノム医療中核拠点病院として得られたこれまでの遺伝子パネル検査の詳細な症例情報や、がんゲノム情報管理センターに登録されている情報を元に、より個別化医療につながる知見を得て、新たな治療開発を目指します。

6.研究者主導臨床試験

高橋 雅信

 がん薬物療法の臨床試験には、新規薬剤の承認を目的とした企業主導の「治験」の他に、すでに承認された薬剤や治療法から最良の有効性、安全性が得られる方法を確立するための「研究者主導臨床試験」があります。当分野では、大規模な多施設協同試験への参加や、NPO法人東北臨床腫瘍研究会が行う多施設協同試験の立案および実施への協力など様々な形で研究者主導臨床試験を推進し、がん薬物療法の治療成績が少しでも向上するためのエビデンス確立に貢献しています。

7.高齢者機能評価を用いた化学療法の効果予測および副作用発現モデルの開発

高橋 雅信

 がんは高齢者に多くみられる疾患です。日本では、がん患者全体の約70%は65歳以上であり、約半数が70歳以上となっています。高齢者では全身状態や併存疾患、精神心理的要因、生活環境などの差が大きく、年齢だけを基準としてがん治療の方針を決定することは難しいとされています。私たちは、高齢者機能評価ツールを使用することで高齢がん患者の状態を幅広い視点で評価し、がん薬物療法の適応や使用する抗がん薬の選択、効果の予測、副作用発現の予測に応用することを目指しています。

8.希少がん・希少分子サブタイプの治療開発

高橋 雅信

 がんには胃がんや大腸がんなど症例数が多い一般的ながんの他に、症例数が少ないいわゆる希少がんがあります。肉腫、神経内分泌腫瘍、GIST、副腎がんなどが希少がんに該当します。希少がんは一般的ながんよりも開発が進んでおらず、症例情報集積や治療法開発が望まれています。また、一般的ながんも、希少な遺伝子・分子異常の集合体であることがわかってきています。

 治験や臨床試験に積極的に参加し症例集積に努めています。また、過去の診療情報を基に薬剤の投与法を模索する目的で臨床論文を作成し発表しています。また、前述のような新たな抗がん剤の開発に関する基礎研究も日々行っており、希少がん・希少分子サブタイプに対する新たな治療法の開発を多方面から進めています。

9.東北広域次世代がんプロフェッショナル養成プラン

城田 英和

 本プランは、2023年度より第4期が開始され東北大学を主幹校として弘前大、秋田大、山形大学、福島県立医大、新潟大学の6大学の連携による大学院教育プログラムです。本プランは高齢化社会における地域のがん医療の課題解決のため、地域がん医療に貢献するがん専門医療人養成に重点を置いています。がん医療に必要な学識と技能や国際的レベルの臨床研究を推進する能力を育み、大学、地域、多職域(医療チーム)、患者会が連携して在宅医療や緩和ケア、放射線治療を含めた地域のがん医療とがん研究を推進するための広域かつ包括的教育プログラムを提供しています。東北大学では大学院に新たに11の正規過程コースと8つのインテンシブコースを設置し、地域のがん診療連携拠点病院(以下、がん拠点病院)等との連携により、多職域のがん専門医療人を養成し地域の人材交流を推進しています。
このプランは第3期がんプロ(正式名:東北次世代がんプロフェッショナル養成プラン)からの得られた成果からがん医療における新たな課題、ニーズ(がん医療の現場で顕在化している課題に対する人材養成、がん予防の推進を行う人材養成、新たな治療法を開発できる人材養成)が生まれ、これらの問題に対応すべく支援を行うものです。

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